YouTubeにあった日本人最高のボクシング試合

私がこれまで見た日本人のボクシングの試合で最高だったのは何か?と聞かれたら、間髪入れずに「輪島功一対柳済斗」の再戦と答えるわけだ。
この試合は前の試合で世界タイトルを失った輪島が柳に挑戦する試合。輪島は二度目のチャンピオン返り咲きを狙っていた。が、柳済斗はこの頃圧倒的に強く、輪島からチャンピオンを奪ったあとも三迫会長の甥っ子だかの挑戦を簡単に退けた。
たしかこのころ、三迫ジムは輪島がチャンピオンを失ったあとも2試合までのマッチメークの権利を持っており、最終的に輪島に再挑戦させることになったわけだ。
が、このとき輪島はすでに32歳。盛りを過ぎていたと思われていた。
ジュニアミドルという日本人としては重い階級でチャンピオンは油が乗りきっていると思われる柳済斗。さらに事前に輪島が風邪をひいて体調が悪いという報道もあった。
なので私は「これは絶対に負けるナ」と思いながらテレビの前に座った。
この頃はまだボクシングの試合は15ラウンド制で、テレビ中継は20時からだったような気がする。

第1ラウンドが始まる。体調が悪いはずの輪島は思いの外調子が良さそうだ。序盤からあの強い柳済斗を圧倒する。最初はすぐに息切れするんだと思っていた。が、どんなに回を重ねても輪島優勢はかわらず、柳済斗が消耗していく。
どのぐらいの回からだかは忘れたが、これは輪島に勝ち目があると思い始めてからは本当に必死になって応援した。そうして15ラウンドに柳済斗はKOされる。
テレビで見る会場内は興奮のるつぼで実況アナウンサーも興奮している。ちなみにこの実況は故・逸見正孝だ。
私も本当に信じられなかった。すごい試合だった。

そしてある日、いつも聴いていたTBSの深夜放送、パックインミュージック小島一慶の日のゲストに「敗れざる者たち」を出版した直後の沢木耕太郎がゲスト出演していた。
沢木という人は初めて聴く名前だったが、その「敗れざる者たち」というのはどうやらスポーツノンフィクションらしく(当時はそういうジャンルすらなかった)、そこには先日のあの輪島−柳の試合のことが書いてあることがわかった。
翌日、早速本屋に行ってその「敗れざる者たち」を買った。
おそらくこの本は自分に影響を与えた本のナンバーワンだと思う。
円谷幸吉榎本喜八カシアス内藤らのノンフィクションが収録されたその本の最後に「ドランカー」というタイトルで輪島功一のあの柳戦前に密着したノンフィクションが入っていた。
この本をむさぼるように読んだ私は輪島が圧倒的に不利と言われた柳戦に勝つためにどれだけのことをしているかを知った。
また、自分が興味があるスポーツをノンフィクションにするジャンルがあるということも知った(当時はまだルポライターという言葉の方が一般的だったが)。

おそらく、、、
この「敗れざる者たち」をその後、私は100回ぐらいは読んだだろう。当時中学生だった私は「将来、何になりたいか?」などと聞かれると「ルポライター」などと生意気に答えるようになっていた。もちろんそんなものにはなれなかったが、、、

さてその輪島と柳の試合はその後、再放送があるわけでもなく、見ることはできなかった。時々、ボクシングの試合がKOで早く終わったときに歴代チャンピオンのKOシーンなどを集めたビデオを流す時があり、それで最終ラウンドだけは録画したことがある。
ずっと見たいと思っていた。なにしろ「敗れざる者たち」を読んでいるから、試合の流れがどのようなものだったかは克明に覚えている。が、やはり動画として見ることができるなんて思いもよらなかった。それがYouTubeにあった。それも15ラウンドまですべて。
ありがとう、アップした人。

とりあえず1〜3ラウンド
http://jp.youtube.com/watch?v=9vPwrJe3IkE

そして最終ラウンド。
http://jp.youtube.com/watch?v=ncVfhrYucSE&feature=related